サスペンション設計プロセス

自動車業界で広く使用されているプロセスでは、サスペンションの設計と開発を別個の3つのステージに分けています。各ステージは、通常、この車両開発プログラムの間、異なる場所で異なる時間帯に作業している異なるチームによって実行されます。理想的には、チームはモデルデータ、モデリング手法および結果を幅広く共有します。チームは同じ車両を対象に作業しているため、1つのグループが学んだエンジニアリング上の教訓は他の2つのチームと共有する必要があります。

vehicle libraryは、このサスペンション設計および開発プロセスに適合するように設計されています。以降では、設計プロセスとこのソフトウェアの使用方法について説明し、このソフトウェアを使用して製品を開発するプロセスの一例を示します。HyperWorksソフトウェア群は、その他の設計手順にも適合するように簡単にカスタマイズできます。


Figure 1.

チーム1: キネマティクス

キネマティクスチームは、車両のパッケージング全体を担当します。彼らは、優れたアラインメント特性を備え、パッケージング要件を満たし、サスペンションのストロークのためにコンポーネント間に適度なクリアランスを設け、サスペンションとシャシーの荷重および剛性要件を満たすように、サスペンションを設計します。

サスペンションのアラインメント特性は、通常、キャスター、キャンバ、トーの各曲線、ステアリング中のアッカーマン誤差、およびサスペンション設計係数の計算で定義します。

MotionSolveは、サスペンション設計係数(Suspension Design Factors: SDF)と呼ばれるサスペンションの特性を計算します。これらは、エンジニアの間では静的設計係数(Static Design Factors)またはサスペンション設計パラメータ(Suspension Design Parameters)とも呼ばれています。これらの特性は、表形式で.sdfファイルに保存され、.abfファイルまたは.pltファイルを介してHyperViewでプロットできます。

MotionSolveAssembly Wizardでは、大半のサスペンションをキネマティック機構として構築することができます。作成されたモデルはポイントを正しい位置に修正し、サスペンションをシミュレートすることができます。シミュレーションイベントはTask Wizardを使用して追加でき、そのサスペンション特性に対してライド、ロール、ステアといったイベントを実行できます。SDFはモデルに組み込まれており、すべてのイベントについて計算されます。レポートテンプレートは全てのイベントで利用可能で、それぞれのイベントで計算される標準の特性を用いて、各イベントの一連のプロットを作成します。

干渉と近接度のチェックは、HyperViewで実行されます。サスペンション構成部品とシャシーのCAD形状をHyperViewにインポートし、サスペンションの運動中に部品どうしの間で得られるクリアランスを測定して、それらの部品が接触しないかどうかを確認するために使用できます。

キネマティクスチームは、車両のハードポイントの位置を使用してパッケージングとサスペンション特性の開発を実行することができます。この設計段階では、完全なブッシュとタイヤのデータは必要ありません。このプロセスでは、グループはサスペンションの設計とパッケージ化を行い、タイヤおよびブッシュ特性の正確な設計は後の段階に先延ばしできます。

チーム2: コンプライアントキネマティクスおよび荷重

コンプライアントキネマティクスチームは、サスペンション内のゴム製部品の特性について責任を担います。彼らはNVHチームと連携して、サスペンションブッシュ、スプリング、スタビライザーバーがプログラム要件を満たすように、それらを開発します。ブッシュレートとサスペンション特性の組み合わせによって、サスペンションのたわみ特性を制御します。これによって、ドライバーのサスペンションに対する“体感”が左右されます。

チームは通常、キネマティクス / コンプライアンス測定(K&C)マシンを使用してサスペンションの特性を測定します。キネマティクス / コンプライアンス測定(K&C)マシンは、フルビークルをテストする目的で設計されていますが、サスペンション特性のみを測定するので、サスペンションはタイヤに関係なく設計できます。

MDL vehicle libraryは、サスペンションのコンプライアント性能をシミュレートするための、ブッシュとスタビライザーバーを備えたサスペンションのハーフカーモデルを構築することで、この設計段階をサポートします。有限要素モデルを使用して剛体を弾性体として表し、サスペンションの構成部品がサスペンションの性能に構造上どのように寄与しているか把握できます。

標準のSDF出力はすべて、標準リクエストとしてモデルに組み込まれています。ライド、ロール、ステアリングのイベントは標準の事前定義されたイベントとしてモデルに組み込むことができます。キネマティックおよびコンプライアンスイベントも含まれています。これらは、K&Cマシンによって実行される標準の個々のテストをすべて模擬します。K&Cイベントはサスペンションをすべての方向で動作させ、用意されているレポートテンプレートが、典型的なK&C特性のための一連のプロットを生成します。

また、このチームはサスペンションへの荷重も生成します。“G”荷重方法論を使用して、通常は、3方向(垂直、横方向、縦方向)について、車輪の中心またはタイヤの接地面の入力荷重を計算します。計算された荷重は、サスペンション構成部品と、シャシーまたは車体のFEA解析に使用できます。HyperViewで荷重の自由体ダイアグラムを生成できます。

チーム3: 車両動解析

車両動解析チームは、通常、ドライバーが快適に感じる安全で安定した車両の開発について責任を担います。チームは、通常、タイヤについて責任を負い、ブッシュ、スプリング、スタビライザーバーなどの他のサスペンション設計特性への重要な入力情報も持っています。車両は、車両重量と最大積載状態の両方を適切に処理する必要があります。多くの車両は、トレーラーを牽引する必要もあります。広範な車両の動作条件によって、動解析の問題が厄介になることがあります。

MDL vehicle libraryは、フロントサスペンションとリアサスペンション、パワートレインとドライブトレイン、ステアリングシステム(コラムを含む)、タイヤモデルを含め、完全な車両モデルを構築して解析することで、この段階をサポートします。タイヤモデルの使用はユーザーの経験に依存し、シンプルなFialaモデル(接地力と横力のスリップ角)を使用する場合もあれば、操安性モデル(Pacejkaスタイルの係数)またはFtiresなどの耐久性モデルを使用する場合もあります。CDtireやRMODKなどのモデルは、MDLにマイナーな変更を加えることでサポートできます。すべてのタイヤ情報(6つの状態変数と6つのフォースおよびモーメント)がSAEまたはISOのいずれかの参照フレームで使用できるように、タイヤデータのリクエストは車両モデルに組み込まれます。

ライブラリには、広範にわたるフルビークルイベントがあります。大半の標準的な横方向過渡車両特性テストは、事前定義されたイベントを使用してシミュレートできます。急旋回、定常円旋回、レーンチェンジ、定常加速と減速がすべてライブラリに含まれています。車両の応答とタイヤの情報をプロットする標準のポスト処理レポートも含まれています。

車両モデルは、構築することがもっとも困難なものの1つです。さまざまなソースからの広範なデータが必要で、それらは異なる単位の場合もあります。横方向応答の適切な相関を得るために、車両全体の慣性データは正確である必要があります。タイヤデータは、イベントでシミュレートされたスリップ角と垂直荷重に関して正確に記述されている必要があります。履歴データは、製品を開発および改良する際にプログラムの早期で使用できます。フルビークルテストと十分な相関を得るために、ほぼすべてのデータを測定し検証する必要があります。