電動パワーステアリングシステム

電動パワーステアリングシステムは、制御したエネルギーをステアリングシステムに付加することによって運転者によるステアリング操作を補助し、旋回などの各種操作を容易にします。

自動車業界では、次の2種類のパワーステアリングシステムが採用されています。
  • 油圧パワーステアリングシステム(HPAS): ポンプで油圧シリンダーに圧力を供給し、そのシリンダーに結合されたラックピニオンアセンブリを操作して、運転者の操舵力を補います。
  • 電動パワーステアリングシステム(EPAS): 直流モーターを使用して、ステアリングシステムに制御したアシストトルクを供給します。

最近の数年間で、次の理由から電動パワーステアリングシステムが主流になっています。第一に、EPASは、さまざまな車両速度に合わせて挙動を変更することにより、個別のニーズに適するように動作を容易にカスタマイズできます。市販されている車両のEPASのほとんどは、車両が低速で走行しているときはアシストを強くし、車両の速度が上がるとアシストを弱くする傾向があります。また、HPASでは、油圧系統の圧力を維持するために油圧ポンプを継続的に運転する必要があります。一方、EPASには、操作が必要なときにのみEPASのモーターに電力を供給すればすむ点で優位性があります。そのため、HPASを使用した同等の車両と比較して車両の燃費が向上します。最後に、EPASは、部品点数が少なく、保守の手間が少ないことから、パワーステアリングシステムとしての訴求力があります。

EPASには、アシストモーターの位置に応じて、コラムアシスト型(C-EPS)、ピニオンアシスト型(P-EPS)、直接駆動型(D-EPS)、およびラックアシスト型(R-EPS)の4種類があります。C-EPS型では、電動アシストユニット、トルクセンサー、およびコントローラーのすべてがステアリングコラムに結合しています。P-EPS型では、電動アシストユニットがステアリングギアのピニオンシャフトに結合しています。この形式は小型車に適しています。D-EPS型では、ステアリングギアとアシストユニットが一体化しているので慣性と摩擦が少なくなります。R-EPS型では、アシストユニットがステアリングギアに結合しています。R-EPS型は、減速比が高いことから慣性が比較的少なく、中型車と大型車に使用できます。

ダブルピニオン構成の電動パワーステアリングシステムは、Car/Small truckライブラリのラックピニオン型ステアリングシステムおよびHeavy Truckライブラリのピットマンステアリングシステムに使用するAssembly Wizardプラグインに用意されています。

MotionView/MotionSolveモデルでの作業

EPASの電子制御ユニットでは、運転者による操舵トルクと車両速度の関数として、必要なアシストトルクを計算します。運転者による操舵トルクは、ステアリングコラムに配置したトルクセンサーで測定します。

アシストモーターでステアリングギアを回し、必要な力を付加して、運転者に必要な操舵力を軽減します。


Figure 1.
既存の車両モデルにEPASを搭載するには、前述したように次の3つのシステムを追加する必要があります:
  • 電気モーター
  • 電子制御ユニット
  • トルクセンサー

電気モーター

簡単な直流モーターは、次の2つの主要な動力学方程式で制御できます。





Figure 2.

はモーターの慣性定数と減衰定数、はモーターの電機子巻線のインダクタンスと抵抗、は電機子電流、はモーターの逆起電力定数とトルク定数、はモーターで発生する電磁トルクと、タイヤ力によってモーターシャフトに作用するカウンターバランストルクです。

モデル全体のブロック図は次のようになります。ここでの主な問題は、タイヤの横力によってピニオンに発生する反作用トルクの計算方法です。


Figure 3.
そのため、Activateでモデル化したモーターの電気力学およびMotionView/MotionSolveモデルで使用しているモーターのピニオンによる分割モデル手法を使用し、これらをラックシステムに結合します。
  • Activateのモーターパートでモーターの角速度を使用して逆起電力電圧を計算すると同時に、現在値のフィードバックを使用して、必要な電気トルクを出力します。


    Figure 4.
  • MotionViewのモーターパートは、モーターの慣性特性を表すボディ、およびパワーステアリングシステムと相互作用するラックボディによるラックアンドピニオンカプラーで構成されています。


    Figure 5.
次の電気モーターのパラメータはアクセスして変更できます。
パラメータ モデル デフォルト値 単位
インダクタンス( Activate 9.06e-5
抵抗( Activate 0.0035
トルク係数( Activate 0.05285 -
逆起電力係数( Activate 0.05285 -
慣性( MotionView 1000

MotionViewモデルで使用するActivateダイヤグラムとFMUには、インストール環境の次の場所からアクセスできます。 <install_dir>\hwdesktop\hw\mdl\mdllib\Common\FMU_Library\EPAS\FMU_source

トルクセンサー

運転者の入力トルクは、ギア入力シャフトとピニオンを結合しているトーションバーによって測定します(他のステアリングシステムでは、それに相当するボディ)。このモデルでは、トルクセンサーをビーム要素としてモデル化するので、運転者による入力トルクは、このビーム要素のトルク出力になります。このビーム要素の剛性と減衰特性は、ビームのプロパティを使用して変更できます。


Figure 6.
トーションバーの剛性と減衰特性は、MotionViewモデルのビームのプロパティを使用して変更できます。
パラメータ デフォルト値 単位
ヤング率(E) 21000
せん断弾性係数(G) 75000
外径(OD) 7
内径(ID) 0
減衰係数(CRatio) 0.01 -

ブースト曲線

ブースト曲線のロジックを使用して、電気モーターで生成する必要があるアシストトルクを設定します。以下の図に示すように、アシストトルクは、では0で、以降は|Td|≧Tdmaxのときに得られるに達するまで線形に増加します。車両の安定性と制御性を維持するために、Tsatの値は車両の縦速度の増加に伴って線形に減少もします。運転者の入力トルクと車両の速度は、MotionViewで車両のモデルからのプラント出力変数です。


Figure 7.
ブースト曲線の各パラメータは、Activateモデルで変更することもできます。
パラメータ デフォルト値 単位
運転者の最小トルク( 1
運転者の最大トルク( 8
モーターの最大トルク( 20
アシストの必要がなくなる車両の速度( 100

EPASシステムを使用したフルビークルモデルの作成

MBD-Vehicle Dynamics Toolsをプリファレンスファイルとして読み込む必要があります。

Update Modeユーティリティは、MBD-Vehicle Dynamics Toolsプロファイルが読み込まれている場合にのみ使用できます。以下の手順で、このプロファイルを読み込み、ユーティリティにアクセスします。

  1. メニューバーから File > Load > Preference Fileを選択します。


    Figure 8.
  2. MBD-Vehicle Dynamics Toolsプロファイルを選択し、Loadをクリックします。


    Figure 9.
  3. Model > Assembly Wizardをクリックします。


    Figure 10.
  4. Model Typeウィンドウで以下を選択します。
    1. Full vehicle with driverを選択します。
    2. riveline configurationで、Front wheel driveを選択します。
    3. 電動アシストステアリングシステムを追加するために、primary systemsにおいて、steering linkagesとしてRackpin steeringを選択する必要があります。


      Figure 11.
  5. steering subsystemsで、EPAS (Rackpin) がSteering boost methodとして利用できるようになります。


    Figure 12.

    その他のモデルシステムを必要に応じて選択します。

    Assemblyウィザードの選択項目を完了すると、Altair Driverと電動パワーアシストステアリングシステムを搭載したフルビークルモデルが完成します。


    Figure 13.

    Sinusoidal SteeringやStep Steerイベントなどのステアリング操作のシミュレーションは、EPASシステムの挙動を理解するのに役立ちます。以下の図では、この2つのイベントをイベント設定で表示し、ステアリングシステムを搭載していない車両が全く同じ操作を行った場合の結果と比較しています。



    Figure 14.