ACU-T:3204 離散座標モデルを使用したシンプルなヘッドランプ内の放射熱伝達

前提条件

このチュートリアルでは、HyperMeshで離散座標放射モデルを使用して放射熱伝達問題を設定し、AcuSolveを使用して解析する方法を紹介します。このチュートリアルを実行する前に、HyperWorksの入門チュートリアルであるACU-T:1000 HyperWorksユーザーインターフェースをすでに完了しHyperMeshAcuSolve、およびHyperViewの基本を理解しているものとします。この解析を実行するには、ライセンス供与済みバージョンのHyperMeshAcuSolveにアクセスできる必要があります。

このチュートリアルを実行する前に、HyperMesh_tutorial_inputs.zip<Altair_installation_directory>\hwcfdsolvers\acusolve\win64\model_files\tutorials\AcuSolveから作業ディレクトリにコピーします。 ACU-T3204_HeadlampDO.hm HyperMesh_tutorial_inputs.zipから取り出します。

HyperMeshデータベース(.hm ファイル)には、メッシュとジオメトリが含まれています。このチュートリアルには、ジオメトリのインポートおよびメッシュ生成に関する手順は含まれていません。

問題の説明

ここで解析する問題を、図 1図 2に概略的に示しています。この問題は、ハウジング、レンズ、電球からなるシンプルなヘッドランプで構成されています。電球の内部空洞は空気で満たされており、体積熱源としてモデル化されている電球のワット数は1Wです。流体ボリューム内の自然対流の影響を考慮するために、空気に対してブシネスク密度モデルが使用されます。電球内で発生する熱は3つの形で伝達されます。すなわち、電球からハウジングへの伝導、空気ボリューム内の自然対流、電球から空気およびレンズのボリュームへの放射です。ヘッドランプの外側サーフェスは、300Kという一定温度に保たれているものと想定されています。


図 1.


図 2.
空気とレンズは、放射熱伝達の関与媒体としてモデル化されます。このチュートリアルでは、空気の吸収係数はゼロと見なされます。空気とレンズのボリュームには、次の放射材料特性が使用されます。
表 1.
  吸収係数 屈折率
空気 0 1.0
レンズ 900 1.57
関与媒体に関するシミュレーションでは、各関与媒体の境界で以下の放射サーフェスタイプを定義する必要があります。
表 2.
サーフェスタイプ 放射サーフェスタイプ
関与媒体 - 関与媒体界面 放射界面 - 内部
関与媒体 - (非関与)媒体界面 Wall
関与媒体の外部境界 放射界面 - 外部または壁
AcuSolveにおける離散座標放射モデルの実装により、鏡面、拡散、および部分的鏡面の各界面のモデル化が可能となります。このためには、放射サーフェスの定義時に適切な拡散比率の値を指定します。拡散比率では、1という値はそのサーフェスが完全な拡散反射であることを意味し、0という値はそのサーフェスが完全な鏡面反射であることを意味します。0と1の間の値は、そのサーフェスでは一部が鏡面反射することを意味します。このチュートリアルでは、空気とレンズの両方が関与媒体としてモデル化されるため、レンズ-空気間の界面とレンズ-外側サーフェス間の界面はそれぞれ、内部放射界面と外部放射界面としてモデル化されます。内部界面は鏡面反射界面として定義されるのに対して、外部界面は拡散反射界面として定義されます。


図 3.

HyperMeshモデルデータベースを開く

  1. HyperMesh Desktopを起動し、AcuSolveのユーザープロファイルを読み込みます。
    User ProfilesからAcuSolveを選択する方法については、HyperMeshの入門チュートリアルACU-T:1000 HyperWorksユーザーインターフェースをご参照ください。
  2. 標準ツールバーのOpen Modelアイコン をクリックします。
    Open Modelダイアログが開きます。
  3. モデルファイルの保存先ディレクトリを参照します。HyperMeshファイルのACU-T3204_HeadlampDO.hmを選択してOpenをクリックします。
  4. File > Save Asをクリックします。
    Save Model Asダイアログが開きます。
  5. 名前をHeadlamp_DOとして新しいディレクトリを作成し、このディレクトリへ移動します。
    このディレクトリが作業ディレクトリになり、シミュレーションに関連するすべてのファイルがこの場所に保存されます。
  6. データベースのファイル名としてHeadlamp_DOと入力するか、別の名前を入力します。
  7. 保存をクリックしてデータベースを作成します。

一般的なシミュレーションパラメータの設定

解析パラメータの設定

  1. Solverブラウザに移動して01.Globalを拡張表示し、PROBLEM_DESCRIPTIONをクリックします。
  2. Entity Editorで、Analysis typeがSteady Stateに設定されていることを確認します。
  3. Temperature equationをAdvective Diffusiveに設定します。
  4. Radiation equationをDiscrete Ordinateに設定します。
  5. Radiation quadratureがS4に設定されていることを確認します。
  6. Turbulence modelをLaminarにセットします(セットされていない場合)。


    図 4.

ソルバー設定

  1. Solverブラウザで、01.Globalの下の02.SOLVER_SETTINGSをクリックします。
  2. Entity Editorで、Relaxation factorを0.4に変更します。
  3. Temperature flowをオンにします。
  4. 残りのオプションはすべて、変更せずにおきます。


    図 5.

材料モデルと物体力の定義

材料モデルの定義

  1. Solverブラウザで、02.Materials > Fluidの順に拡張表示してAir_HMをクリックします。
  2. Entity Editorで、Density typeをBoussinesqに変更します。
  3. Radiation Propertiesで、Allow Participating Media Radiationオプションをアクティブにします。
  4. Absorption coefficientを0、Refractive indexを1に設定します。


    図 6.
  5. Solverブラウザで、02.Materialsの下のSOLIDを右クリックしてCreateを選択します。
  6. Entity Editorで、これにArniteという名前を付けます。
  7. Densityを1670kg/m3に設定します。
  8. Specific heatを2050J/kg-Kに設定します。
  9. Conductivityを1.65W/m-kに設定します
  10. Radiation Propertiesで、Allow Participating Media Radiationオプションをアクティブにします。
  11. Absorption coefficientを900に設定して、Refractive indexを1.57に設定します。


    図 7.
  12. 手順5~9を繰り返して、次の材料特性を持つPlasticおよびLEDという2つのソリッド材料モデルをさらに作成します。
    これら2つの材料については、放射特性を定義する必要はありません。
    1. Plastic:
      1. 密度 - 1270kg/m3
      2. 比熱 - 1900J/kg-K
      3. 伝導率 - 0.22W/m-K
    2. LED:
      1. 密度 - 5500kg/m3
      2. 比熱 - 0.3J/kg-K
      3. 伝導率 - 5.0W/m-K
  13. データベースを保存します。

物体力の定義

  1. Solverブラウザで、03.Body_Force > BODY_FORCEの順に拡張表示してGravity_HMをクリックします。
  2. Entity Editorで、Y-Gravityを-9.81m/sec2に設定し、Z-Gravityを0に変更します。


    図 8.

熱源の定義

  1. Solverブラウザで、03.Body_Forceを右クリックしてCreateを選択します。
  2. Entity Editorで、これにLED Heat Sourceという名前を付けます。
  3. MediumをSolidに変更します。
  4. Heat source unit typeをPer unit volumeに設定します。
  5. Heat Source typeをConstantに設定し、Volumetric heat sourceを2049180W/m3に設定します。


    図 9.

境界条件の設定

放射率モデルの作成

  1. Solverブラウザで、07.Emissivity_Modelを右クリックしてCreateを選択します。
  2. Entity Editorで、nameにInnerを入力します。
  3. Emissivityを0.05に設定します。

境界条件の設定

デフォルトでは、すべてのコンポーネントは、壁境界条件に含まれます。この手順では、それらを適切な境界条件に変更し、流体ボリュームに材料特性を割り当てます。
  1. Solverブラウザ12.Surfaces > WALLの順に拡張表示します。
  2. Airをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをFLUIDに変更します。
    2. MaterialをAir_HMに設定します。
    3. Body forceをGravity_HMに設定します。


    図 10.
  3. Housingをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをSOLIDに変更します。
    2. MaterialをPlasticに設定します。


    図 11.
  4. Bulbをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをSOLIDに変更します。
    2. MaterialをLEDに設定します。
    3. Body forceをLED Heat Sourceに設定します。


    図 12.
  5. Lensをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをSOLIDに変更します。
    2. MaterialをArniteに設定します。


    図 13.
  6. Lens-innerをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。Radiation Surfaceタブで、次のように設定します。
    1. Displayチェックボックスをアクティブにして、Active radiation surface欄をOnに設定します。
    2. TypeをRadiation Interface、Radiation interface typeをInternalに設定します。
    3. Diffused fractionを0に設定します。


    図 14.
  7. Lens-outerをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。Temperature BC typeをValue、Temperatureを300Kに設定します。Radiation Surfaceタブで、次のように設定します。
    1. Displayチェックボックスをアクティブにして、Active radiation surface欄をOnに設定します。
    2. TypeをRadiation Interface、Radiation interface typeをExternalに設定します。
    3. External emissivity modelをBlack Bodyに設定します。
    4. External refractive indexを1、External temperatureを300Kに設定します。
    5. Diffused fractionを1に設定します。


    図 15.
  8. Housing-Lens-interfaceをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。Radiation Surfaceタブで、次のように設定します。
    1. Displayチェックボックスをアクティブにして、Active radiation surface欄をOnに設定します。
    2. TypeをWall、Emissivity modelをBlack Bodyに設定します。
    3. Diffused fractionを1に設定します。


    図 16.
  9. Housing-innerをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。Radiation Surfaceタブで、次のように設定します。
    1. Displayチェックボックスをアクティブにして、Active radiation surface欄をOnに設定します。
    2. TypeをWall、Emissivity modelをInnerに設定します。
    3. Diffused fractionを1に設定します。


    図 17.
  10. Housing-outerをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeがWALLに設定されていることを確認します。
    2. Temperature BC typeをValueに設定します。
    3. Temperatureを300Kに設定します。


    図 18.
  11. Bulb_wallsをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。Radiation Surfaceタブで、次のように設定します。
    1. Displayチェックボックスをアクティブにして、Active radiation surface欄をOnに設定します。
    2. TypeをWall、Emissivity modelをBlack Bodyに設定します。
    3. Diffused fractionを1に設定します。


    図 19.
  12. モデルを保存します。

解の計算

AcuSolveの実行

ここでは、AcuSolveを起動してこのケースの解を計算します。

  1. すべてのメッシュコンポーネントの表示をオンにします。
    解析を実行するには、アクティブなすべてのコンポーネントのメッシュを可視化した状態にする必要があります。
  2. ACUツールバーの をクリックします。
    Solver job Launcherダイアログが開きます。
  3. オプション: 解析時間を短縮するには、使用可能なプロセッサの数に応じて、使用するプロセッサの数に大きい値(4または8)を設定します。
  4. 他のオプションはデフォルト設定のままとして、Launchをクリックして解析プロセスを開始します。


    図 20.

AcuProbeによる解析のモニター

AcuSolveの実行中に、AcuProbeを使用して解析の進行状況をモニターし、残存率、解析率、および温度や熱流束などの変数の値をプロットできます。ソルバーの実行が開始されると、AcuTailウィンドウとAcuProbeウィンドウが自動的に開きます。

  1. AcuProbeウィンドウのData Treeで、Residual Ratioを拡張表示します。
  2. Allを右クリックし、Plot Allを選択します。
    注: プロットを正しく表示するために、ツールバーで をクリックする必要がある場合があります。


    図 21.
解が収束したらAcuTailウィンドウとAcuProbeウィンドウを閉じます。

HyperViewによる結果のポスト処理

この手順では、HyperViewを使用して結果を可視化します。その際、切断面上の温度と入射放射のコンタープロットを作成します。ソルバーの実行が完了したらAcuProbeウィンドウとAcuTailウィンドウを閉じます。HyperMesh Desktopウィンドウで、AcuSolve Controlタブを閉じ、モデルを保存します。

HyperViewインターフェースへの切り替えと、AcuSolveのモデルと結果の読み込み

  1. HyperMesh Desktopウィンドウで、グラフィックスウィンドウの左下隅にあるClientSelectorドロップダウンをクリックします。


    図 22.
  2. リストから、HyperViewを選択します。
  3. 表示されるポップアップダイアログで、Yesをクリックします。
    インターフェースがHyperViewに変更されます。

    HyperViewを読み込むと、デフォルトでLoad model and resultsパネルが開きます。このパネルが表示されない場合は、File > Open > Modelの順にクリックします。

  4. Load model and resultsパネルで、Load modelの隣にある をクリックします。
  5. Load Model Fileダイアログで、作業ディレクトリに移動して、ポスト処理する解析実行のAcuSolve .Logファイルを選択します。この例で選択するファイルは、Headlamp_DO.1.Logです。
  6. Openをクリックします。
  7. パネル領域Applyをクリックしてモデルと結果を読み込みます。
    読み込むと、モデルが形状で色分けされます。

切断面上の温度コンターと入射放射コンターの作成

  1. Standard Viewsツールバーの をクリックすることで、xy平面を正面から見た表示にします。
  2. 3DViewControlsツールバーで、 を何度か右クリックして、モデルの向きを下図のようにします。


    図 23.
  3. HV-DisplayツールバーのSection cutアイコン をクリックします。
  4. パネル領域で、Addをクリックして、Section 1という名前の新しい切断面を作成します。
  5. Define planeセクションで、軸をX Axisに設定し、Applyをクリックします。
  6. DisplayオプションをClipping planeからCross sectionに変更します。


    図 24.
  7. Gridlineをクリックします。Gridline Optionsダイアログで、Grid lineの下のShowチェックボックスを非アクティブにして、OKをクリックします。
  8. Resultsツールバーで をクリックしてContourパネルを開きます。
  9. パネル領域で、Result typeをTemperature (s)に設定します。
  10. Componentsエンティティセレクターをクリックします。Extended Entity SelectionダイアログでAllを選択します。
  11. Applyをクリックします。
  12. パネル領域のDisplayタブで、Discrete colorオプションをオフにします。


    図 25.
  13. Legendタブをクリックし、つづいてEdit Legendをクリックします。表示されたダイアログで、Numeric precisionを2に変更してOKをクリックします。
    次の図に示すようなコンタープロットが表示されます。


    図 26.
  14. パネル領域で、Result typeをIncident_radiationに変更し、Applyをクリックします。


    図 27.

    上図からわかるとおり、光線は電球から発せられ、空気とレンズを通過して、大気に放射されます。

要約

このチュートリアルでは、AcuSolveで離散座標放射モデルを使用し、ヘッドランプ内の放射熱伝達問題を設定して解析する方法を知ることができました。まず、メッシュと基本的なモデルの構成が含まれたHyperMeshデータベースをインポートし、シミュレーションパラメータと境界条件を設定しました。解が計算された後に、HyperViewを使用して結果を処理し、温度と入射放射のコンタープロットを作成しました。