ACU-T:3000 囲まれた温かい円筒:自然対流

前提条件

このチュートリアルでは、熱源を備えた同心円筒の円環内で自然対流によって生じる空気の流れのCFDシミュレーションを設定および解析して、その結果を表示するための手順を説明します。このチュートリアルを実行する前に、HyperWorksの入門チュートリアルであるACU-T:1000 HyperWorksユーザーインターフェースをすでに完了しHyperMeshAcuSolve、およびHyperViewの基本を理解しているものとします。この解析を実行するには、ライセンス供与済みバージョンのHyperMeshAcuSolveにアクセスできる必要があります。

このチュートリアルを実行する前に、HyperMesh_tutorial_inputs.zip<Altair_installation_directory>\hwcfdsolvers\acusolve\win64\model_files\tutorials\AcuSolveから作業ディレクトリにコピーします。 ACU-T3000_HotCylinder.hm HyperMesh_tutorial_inputs.zipから取り出します。

HyperMeshデータベース(.hm ファイル)には、メッシュとジオメトリが含まれています。このチュートリアルには、ジオメトリのインポートおよびメッシュ生成に関する手順は含まれていません。

問題の説明



図 1.

ここで解析する問題の概略図を上図に示します。内側の円筒は内部発熱を伴うソリッドであり、内側と外側の円筒間の円環スペースは、流体として空気が入っている流体ボリュームです。内側円筒のサーフェスと接触している空気は加熱され、浮力効果によって円環の上部まで上昇して、上部にある冷たい流体を押しのけます。同時に、熱いサーフェスと接触していた流体が周囲の冷たい流体と入れ替わります。定常状態に達するまで、このプロセスが継続的に繰り返されます。

両方の円筒は無限に長いものとみなされ、半対称性と周期性を使用してモデル化されています。円筒はz方向に無限なため、この方向に沿って周期性が適用されます。

理論の紹介

自然対流

対流は、物質の運動を通して熱エネルギーの移動が起きる熱伝達メカニズムです。対流の定義には物質の運動が含まれるため、対流には、通常流体状態が存在します。この種の熱伝達の多くは、温かいまたは冷たいサーフェスと流体の間で発生します。サーフェスと接触している流体の膜がサーフェスから熱を吸収したり、サーフェスに熱を伝達したりして、新しい膜に置換されます。この流体の運動は、ファンやポンプなどの外部ソースによって制御される場合もあれば、流体特性の内部変化が原因で発生する場合もあります。外部ソースが流体運動の原因ではない場合、作用している熱伝達メカニズムは自然対流と呼ばれます。自然対流における流体の運動の原動力は、熱伝達によって流体内で引き起こされる温度勾配による流体の密度変化です。

自然対流メカニズムは、前述の問題の説明と同様に機能します。サーフェスと接触している流体は、サーフェスから熱を吸収したり、サーフェスに熱を伝達したりして、周囲の流体よりも温かくなったり、冷たくなったりします。温度勾配によって引き起こされる密度差から生じる浮力によって、流体は上下に移動します。流体が移動してできた空隙を周囲の流体が満たし、同じプロセスが繰り返されます。これにより、温かい流体を対流セルの一番上に、冷たい流体を一番下に運ぶ対流が発生します。浮力効果は重力によって引き起こされるため、自然対流が起きるためには重力の存在が不可欠です。ただし、重力は流体運動の背後にある原動力ではないことに注意する必要があります。重力の存在は、温度勾配によって引き起こされる密度変化から生じる流体の移動を可能にするだけです。

自然対流の始まりは、レイリー数(Ra)と呼ばれる無次元数によって数学的に特定されます。レイリー数は次のように定義されます。

R a x =  gβ αν   ( T s T )  x 3

ここで:
  • x は代表長さ(m)
  • R a x はレイリー数 x
  • g は重力加速度(m/s2
  • T s はサーフェス温度(K)
  • T は静止温度(物体のサーフェスから遠く離れた流体の温度)(K)
  • ν は動粘性率(m2/s)
  • αは熱拡散率(m2/s)
  • βは熱膨張係数(絶対温度の理想気体の場合 1 / T )。

流体特性 ν 、α、およびβは膜温度、 T f 、以下のように定義されます:

T f = T s + T 2

レイリー数が流体の臨界値を下回っている場合、熱伝達は主に伝導の形態を取ります。この臨界値を上回っている場合、主な熱伝達メカニズムは対流になります。

ブシネスク密度モデル

ブシネスク密度モデルは、自然対流などの浮力流れに適用される近似法です。ブシネスク近似では、重力加速度 g 。この近似の基本は、温度変化が小さいために結果的に密度の変化も小さくなり、無視できるということです。ただし、 g で乗算した場合は、結果の項が無視できない力にまで増大します。ブシネスク近似は次のようになります。

ρ=  ρ 0  ( 1β ΔT )

ここで、
  • ρ は温度 T
  • ρ 0 は基準温度(における密度 T o (kg/m3)
  • Δ T は温度 T T o (K)

近似で説明したように、ブシネスク密度モデルは、密度変化が小さい場合にのみ適用されます。一般的な指針は、条件 ( β   Δ T 1 ) が真であることを確認することです。これにより、流体内部の想定温度差が大きくないケースにのみ使用するという制限が間接的にこのモデルに加えられます。

HyperMeshモデルデータベースを開く

  1. HyperMeshを起動し、AcuSolveのユーザープロファイルを読み込みます。
    User ProfilesからAcuSolveを選択する方法については、HyperMeshの入門チュートリアルACU-T:1000 HyperWorksユーザーインターフェースをご参照ください。
  2. 標準ツールバーのOpen Modelアイコン をクリックします。
    Open Modelダイアログが開きます。
  3. モデルファイルの保存先ディレクトリを参照します。HyperMeshファイルのACU-T3000_HotCylinder.hmを選択してOpenをクリックします。
  4. File > Save Asをクリックします。
    Save Model Asダイアログが開きます。
  5. 名前をNaturalConvectionとして新しいディレクトリを作成し、このディレクトリへ移動します。
    このディレクトリが作業ディレクトリになり、シミュレーションに関連するすべてのファイルがこの場所に保存されます。
  6. データベースのファイル名としてNaturalConvectionと入力するか、別の名前を入力します。
  7. 保存をクリックしてデータベースを作成します。

一般的なシミュレーションパラメータの設定

この手順では、シミュレーション全体に適用されるシミュレーションパラメータを設定します。

一般的なシミュレーションパラメータの設定

  1. Solverブラウザに移動して01.Globalを拡張表示し、PROBLEM_DESCRIPTIONをクリックします。
  2. Entity Editorで、Analysis typeがSteady Stateに設定されていることを確認します。
  3. Temperature equationをAdvective Diffusiveに設定します。


    図 2.

ソルバー設定

  1. Solverブラウザで、01.Globalの下の02.SOLVER_SETTINGSをクリックします。
  2. Entity Editorで、Convergence toleranceを0.0001に変更します。
  3. FlowおよびTemperature がオンになっていることを確認します。
  4. Temperature flowをオンにします。


    図 3.

時刻歴出力ポイントの作成

Time History Outputコマンドを使用すれば、領域内の任意の点の節点解を抽出することができます。

  1. Solverブラウザで、18.Time_History_Outputを右クリックし、Createを選択します。
  2. Entity Editorで、出力の名前をMonitor Pointsに変更します。
  3. TypeをCoordinatesに変更します。
  4. No of Coordinate Pointsを2に設定します。
    新しいデータ入力欄が作成されます。
  5. をクリックしてNo of Coordinatesダイアログを開きます。このダイアログで、下図のとおりに値を入力し、ダイアログを閉じます。


    図 4.
  6. Output frequencyを1に設定します。
    このように設定することで、指定された座標点で時間ステップごとにサーフェス出力が書き込まれます。


    図 5.

物体力と材料モデルパラメータの設定

空気の材料モデルパラメータの変更

  1. Solverブラウザで、02.Materials > FLUIDの順に拡張表示してAir_HMをクリックします。
  2. Entity Editorで、Density typeをBoussinesqに変更します。
  3. ExpansivityとReference temperatureの値が、それぞれ0.00347222222222K-1288Kに設定されていることを確認します。


    図 6.

ソリッドの材料モデルの作成

  1. Solverブラウザで、02.Materialsを右クリックしてMaterial(Solid)を選択します。
  2. Entity Editorで、材料の名前をStainless Steelに変更します。
  3. Densityの値を8000kg/m3に設定します。
  4. Specific heatの値を500J/kg-Kに設定します。
  5. Conductivityの値を16.2W/m-kに設定します。


    図 7.

重力物体力の定義

  1. Solverブラウザで、03.Body_Force > BODY_FORCEの順に拡張表示してGravity_HMをクリックします。
  2. Entity Editorで、Y Gravityの値を-9.81m/sec2に変更します。
  3. Z Gravityを0に変更します。


    図 8.

体積熱源の定義

  1. Solverブラウザで、03.Body_Forceを右クリックし、Createを選択します。
  2. Entity Editorで、物体力の名前をHeat Sourceに変更します。
  3. MediumをSolidに変更します。
  4. Heat source unit typeをPer unit volumeに変更します。
  5. Volumetric heat sourceの値を20000W/m3に設定します。


    図 9.
  6. モデルを保存します。

境界条件と初期状態の設定

材料特性とサーフェス境界条件の指定

デフォルトでは、すべてのコンポーネントは、壁境界条件に含まれます。この手順では、それらを適切な境界条件に変更し、流体ボリュームに材料特性を割り当てます。
  1. Solverブラウザ12.Surfaces > WALLの順に拡張表示します。
  2. Solidをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをSOLIDに変更します。
    2. MaterialとしてStainless Steelを選択します。
    3. Body forceをHeat Sourceに設定します。


    図 10.
  3. Fluidをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeをFLUIDに変更します。
    2. MaterialとしてAir_HMを選択します。
    3. Body forceをGravity_HMに設定します。


    図 11.
  4. solid_pos_zをクリックします。Entity Editorで、簡易境界条件をOffにします。


    図 12.
  5. 同様に、solid_neg_zfluid_pos_zfluid_neg_zの各コンポーネントの簡易境界条件をオフにします。
    これらのサーフェスは領域の長さ方向に沿った周期的サーフェスであり、内部サーフェスとしてモデル化される必要があります。したがって、簡易境界条件をオフにできます。
  6. symmetryをクリックします。Entity Editorで、TypeをSYMMETRYに変更します。


    図 13.
  7. inner_wallをクリックします。Entity Editorで、TypeがWALLに設定されていることを確認します。


    図 14.
  8. outer_wallをクリックします。Entity Editorで、
    1. TypeがWALLに設定されていることを確認します。
    2. Temperature BC typeをValueに設定します。
    3. Temperatureを298Kに設定します。


    図 15.

周期的境界条件の指定

無限に長い領域の一部のみをモデル化しているため、周期的境界条件を指定することで、解析の周期性を設定する必要があります。その結果として、解析は周期性によって制約されます。周期的境界条件によって、周期性が定義されている2つのサーフェス上の対応する節点のペア同士がリンクされます。

  1. Solverブラウザで、16.Periodic_Boundary_Conditionを右クリックし、Createを選択します。
  2. Entity Editorで、境界条件の名前をperiodicity_fluidに変更します。
  3. DefinitionがPeriodic componentsに設定されていることを確認します。
  4. Source component欄で、Componentエンティティコレクターをクリックして、コンポーネントのリストからfluid_pos_zを選択します。
  5. 同様に、Target componentをfluid_neg_zに設定します。


    図 16.
  6. 手順1~5を繰り返し、periodicity_solidという名前のもう1つの周期的境界条件を作成します。Source componentとTarget componentはそれぞれsolid_pos_zsolid_neg_zに設定します。

基準圧力の指定

このモデルのセットアップには入口と出口は含まれていないため、基準圧力を手動で指定する必要があります。このためには、流体領域内の任意の節点で圧力節点境界条件を指定します。

  1. Solverブラウザで、15.Nodal_Boundary_Conditionを右クリックし、Createを選択します。
  2. Entity Editorで、境界条件の名前をFixed Pressure nodeに変更します。
  3. DefinitionをNodesに変更します。
  4. Number of Nodesを1に設定します。
  5. Boundary condition variableをPressureに変更します。
  6. TypeがZeroに設定されていることを確認します。
  7. Nodeエンティティコレクターをクリックし、流体領域内の任意の節点をモデリングウィンドウから選択します。


    図 17.

節点初期状態の指定

  1. Solverブラウザ01.Globalを拡張表示し、NODAL_INITIAL_CONDITIONをクリックします。
  2. Entity Editorで、Temperatureのデフォルト値を353.15Kに設定します。


    図 18.
  3. モデルを保存します。

解の計算

  1. すべてのメッシュコンポーネントの表示をオンにします。
    解析を実行するには、アクティブなすべてのコンポーネントのメッシュを可視化した状態にする必要があります。
  2. ACUツールバーの をクリックします。
    Solver job Launcherダイアログが開きます。
  3. オプション: 解析時間を短縮するには、使用可能なプロセッサの数に応じて、使用するプロセッサの数に大きい値(4または8)を設定します。
  4. Output time stepsはAllまたはFinalに設定できます。これは定常状態解析なので、最後の時間ステップでの出力が得られれば十分です。
  5. Auto run AcuTailAcuProbe オプションがオンになっていることを確認します。.
  6. 他のオプションはデフォルト設定のままとして、Launchをクリックして解析プロセスを開始します。


    図 19.

結果のポスト処理

解析が進むに伴い、AcuProbeウィンドウとAcuTailウィンドウが自動的に開きます。これらのアプリケーションを使用して、解析の進行状況をモニターできます。

AcuProbeでのポスト処理

  1. 解が収束したら、AcuProbe Data Treeから、Time History > Monitor Points > node 1の順に拡張表示します。
  2. temperatureを右クリックし、Plotを選択します。
  3. 同様に、node 2を拡張表示し、temperatureを右クリックしてPlotを選択します。
    両方の場所の温度プロットが下図のようにプロットウィンドウに表示されます。
    注: プロットを正しく表示するために、ツールバーで をクリックする必要がある場合があります。


    図 20.
AcuTailウィンドウとAcuProbeウィンドウを閉じます。HyperMeshウィンドウで、AcuSolve Controlタブを閉じます。

HyperViewの起動とモデルおよび結果の読み込み

  1. HyperMeshのメインメニューでApplications > HyperViewをクリックしてHyperMeshを開きます。
    HyperViewウィンドウを読み込むと、デフォルトでLoad model and resultsパネルが開きます。このパネルが表示されない場合は、File > Open > Modelの順にクリックします。
  2. Load model and resultsパネルで、Load modelの隣にある をクリックします。
  3. Load Model Fileダイアログで、作業ディレクトリに移動して、ポスト処理する解析実行のAcuSolve .logファイルを選択します。この例で選択するファイルは、NaturalConvection.1.Logです。
  4. Openをクリックします。
  5. パネル領域Applyをクリックしてモデルと結果を読み込みます。
    読み込むと、モデルが形状で色分けされます。

温度分布コンターの作成

  1. Resultsツールバーで をクリックしてContourパネルを開きます。
  2. パネル領域で、Result typeをTemperatureに変更します。
  3. Applyをクリックして温度分布コンターを表示します。
  4. Standard Viewsツールバーの をクリックすることで、xy平面を正面から見た表示にします。
  5. パネル領域のDisplayタブで、Discrete colorオプションをオフにします。


    図 21.
  6. Legendタブをクリックし、つづいてEdit Legendをクリックします。表示されたダイアログで、Numeric formatをFixedに変更してOKをクリックします。
    次のようなコンタープロットが表示されることを確認します。


    図 22.

速度ベクトルプロットの作成

  1. Resultsツールバーの をクリックして、Vectorパネルを開きます。
  2. パネル領域で、Result typeがVelocity(v)に設定されており、X+Y+Zのチェックボックスのみがアクティブになっていることを確認します。
  3. Overlap result displayチェックボックスをアクティブにします。
    これにより、前の手順で作成した温度コンタープロットの上にベクトルプロットがインプリントされます。
  4. パネル領域Applyをクリックします。


    図 23.
  5. Displayタブに移動します。
  6. Color byオプションをDirectionに変更します。
  7. X+Y_Zの横のカラーボタンをクリックし、黒(または任意の色)に設定します。
  8. Vector headsオプションをArrowTipに設定します。


    図 24.

    上記の設定変更に応じて、ベクトルプロットが変化します。次の図に示すようなベクトルプロットが表示されることを確認します。このプロットは、空気の流れの方向が明確に示されるように拡大表示されています。



    図 25.

    問題の説明で述べたとおり、ソリッドサーフェスと接触している空気は加熱され、一番上まで上昇して冷たい空気と入れ替わり、定常状態に達するまでこのサイクルが繰り返されます。

要約

このチュートリアルでは、HyperMeshAcuSolveを使用し、自然対流問題を設定して解析する方法を知ることができました。まずHyperMeshモデルデータベースをインポートし、シミュレーションパラメータと境界条件を設定しました。解が計算された後に、HyperViewを使用して結果をポスト処理し、領域全体にわたる温度分布のコンタープロットを作成しました。