ACU-T:6000 静的ミキサーのシミュレーション - AcuTrace

このチュートリアルでは、後処理モジュールAcuTraceと組み合わせた静的ミキサーのシミュレーションの設定、解析、および結果表示のための手順を説明します。このシミュレーションでは、AcuSolveを使用して簡易ミキサー内の化学種の混合を計算し、AcuTraceを使用してミキサー内の有限質量粒子の粒子運動を計算します。このチュートリアルの目的は、AcuTraceを使用して流線を視覚化し、流跡線を生成するために必要な概念を紹介することです。

TCFDシミュレーションの基本的な手順については、ACU-T:2000 ミキシングエルボ内の乱流をご参照ください。このチュートリアルでは、AcuSolveの以下の追加機能を紹介します。
  • AcuTraceを使用した有限質量流跡線の生成
  • AcuFieldViewに読み込むためのAcuTranstraceを使用した節点出力データの変換
  • 流線と流跡線を視覚化するためのAcuFieldViewを使用した節点出力のポスト処理

前提条件

入門チュートリアルであるACU-T:2000 ミキシングエルボ内の乱流をすでに完了している必要があります。ここでは、AcuConsoleAcuSolve、およびAcuFieldViewをある程度使い慣れていることを前提としています。ライセンス供与済みバージョンのAcuSolveにアクセスできることも必要です。

このチュートリアルを実行する前に、AcuConsole_tutorial_inputs.zip<<Altair_installation_directory>\hwcfdsolvers\acusolve\win64\model_files\tutorials\AcuSolveから作業ディレクトリにコピーします。 StaticMixer.acss をAcuConsole_tutorial_inputs.zipから取り出します。

問題の解析

CFDシミュレーションにおける重要なステップは、工学的問題を調べ、AcuSolveに対して指定する必要のある重要なパラメータを決定することです。パラメータは、形状要素(入口、出口、壁など)に基づいて行うことができるとともに、流れの条件(流体プロパティ、速度、流れを乱流または層流のどちらでモデル化するのかなど)に基づいて行うことができます。

このチュートリアルで扱う問題は、図1に示しています。これは、管内で混合を引き起こすために湾曲した複数の壁を含む混合管で構成されています。入口フェイスは、species_1を100%含む領域と全く含まない領域の2つの領域に分割されています。

入口の直径は0.1mで、混合管の長さは0.525mです。フィンの平均直径は0.1mです。フィンの最大厚みは0.003mです。


図 1. 静的ミキサーの概略図

入口における境界条件は、速度が1.0m/sの完全な入口プロファイルを生成するように定義されます。入口のある部分はspecies_1を100%含むように定義され、他の部分はこれを全く含まないように定義されます。

この問題で扱う流体はエポキシ樹脂であり、この樹脂の密度は1264.0kg/m3、粘性は1.49kg/m-secです。

シミュレーションの適切な条件を設定することに加えて、優れた結果が得られるように十分に細分化されたメッシュを利用することが重要です。このアプリケーションでは、流れがフィンの壁を通り過ぎるときに加速されます。そのため、勾配が大きくなり、細かな解像度が必要になります。壁サーフェス付近のy+が妥当なレベルに保たれるように、適切な境界層パラメータを設定する必要があります。この領域ではわずかに細分化されたメッシュを使用していますが、グリッドに依存しない解を得るために必要なメッシュコントロールを特定するには、適切なメッシュ細分化の検討が必要なことに注意してください。モデルの設定プロセスを示すことを意図しており、妥当な実行時間を維持するため、本チュートリアルで使用するメッシュコントロールは非常に粗くなっています。グリッドの収束解を得るには、非常に高いメッシュ密度が必要となります。

解析パラメータの定義

AcuConsoleの起動とシミュレーションデータベースの作成

次の手順では、AcuConsoleを起動して、シミュレーション設定を保存するためのデータベースを開きます。このチュートリアルでは、まず既存のデータベースの読み込み、粒子トレース設定の準備、およびモデルの実行を行います。その後、AcuTraceを実行して、流れ場内の流跡線を生成し、AcuConsoleに読み込むためにデータを変換します。最後に、AcuConsoleを使用して結果の一部の特性を可視化します。

  1. Windows のスタートメニューからスタート > Altair <バージョン> > AcuConsoleをクリックして AcuConsoleを起動します。
  2. Fileメニューをクリックし、OpenをクリックしてChose a fileダイアログを開きます。
  3. StaticMixer.acssが保存されているディレクトリを参照します。
  4. StaticMixer.acssを選択し、Openをクリックしてデータベースを開きます。

一般的なシミュレーションパラメータの設定

次の手順では、シミュレーション全体に適用されるパラメータを確認します。単純にするため、Data Tree Manager内のBASフィルタを使用して、任意のシミュレーションに適用できる基本的な設定をフィルタできます。このフィルタにより、Data Tree内の使用可能な項目の小さなサブセットのみを表示できるようになり、エントリの移動が容易になります。

このチュートリアルで設定する一般的なパラメータは、乱流、定常解析、および固定メッシュタイプのためのものです。

  1. Data Tree ManagerBASをクリックして、Data Tree内の基本ビューに切り替えます。


    図 2.
  2. GlobalData Tree項目をダブルクリックして拡張表示します。
    ヒント: 項目名の横にある をクリックしてツリー項目を拡張表示することもできます。


    図 3.
  3. Problem DescriptionをダブルクリックしてProblem Description詳細パネルを開きます。
    ヒント: ツリー項目を右クリックしてコンテキストメニューからOpenをクリックすることでも、パネルを開くことができます。
  4. TitleとしてMixing_tubeと入力します。
  5. Sub titleとしてSteady Stateと入力します。
  6. Analysis typeをSteady Stateに変更します。
  7. Species equationをAdvective Diffusiveに設定します。
  8. Turbulence equationをSpalart Allmarasに変更します。
  9. Mesh typeをFixedに設定します。


    図 4.

解法パラメータの設定

  1. Auto Solution StrategyをダブルクリックしてAuto Solution Strategy詳細パネルを開きます。
  2. Analysis typeがSteady Stateに設定されていることを確認します。
  3. Max time stepsを100に設定します。
  4. Convergence toleranceが0.001秒に設定されていることを確認します。
  5. Relaxation factorを0.4に設定します。
    緩和係数は、解の収束を改善するために使用されます。通常は、0.2から0.4までの値であれば、求解のスムーズな進行の実現と、収束に達するために必要な計算時間の増加とのバランスをうまくとることができます。緩和係数が大きくなると、AcuSolveで定常状態解を得るまでにかかる時間ステップが多くなります。大きな緩和係数は、非常に複雑な用途で収束を達成するために必要な場合があります。

材料モデルパラメータの設定

AcuConsoleには、Air、Aluminum、Waterという、標準のパラメータが定義されている3つの事前定義済み材料が用意されています。このチュートリアルでは、AcuConsoleデータベースに事前に読み込まれている、新しく定義した材料モデルの“エポキシ樹脂”を使用します。次の手順では、事前定義された“エポキシ樹脂”の材料特性が、この問題おいて目的の特性と一致することをを確認します。
  1. Data TreeMaterial Modelをダブルクリックして拡張表示します。


    図 5.
  2. Data TreeEpoxy ResinをダブルクリックしてEpoxy Resin詳細パネルを開きます。
  3. Densityタブをクリックします。エポキシの密度は1264.0kg/m3です。
  4. Viscosityタブをクリックします。樹脂の粘性は1.49kg/m-secです。
  5. データベースを保存して設定のバックアップを作成します。これは、次のいずれかの方法で実行できます。
    • Fileメニューをクリックして、Saveをクリックします。
    • ツールバーの をクリックします。
    • Ctrlキーを押しながらSを押します。
    注: AcuConsoleで加えられた変更は、直ちにデータベースファイル(.acs)に保存されます。保存操作を実行すると、データベースがバックアップファイルにコピーされます。今後の変更内容を利用することを希望しない場合は、このバックアップファイルを使用して、その保存済み状態からデータベースを再読み込みすることができます。

出力データストリームの準備

密度が一定でない粒子に対して有限質量粒子トレース機能を使用するには、シミュレーション中に追加の変数を保存する必要があります。これは、Derived Quantity Outputを使用して実現されます。

  1. Data Treeで、Outputをダブルクリックして拡張表示します。
  2. Nodal Outputをダブルクリックします。
  3. Time step frequencyを1000に変更します。
  4. Time frequencyを0に設定します。
  5. Data Treeで、Derived Quantity Outputをダブルクリックして、Derived Quantity Output詳細パネルを開きます。
  6. Time step frequencyを1000に変更します。
  7. Time frequencyを0に設定します。

解の計算と結果の確認

AcuSolveの実行

次の手順では、AcuSolveを起動してこのケースの解を計算します。

  1. ツールバーでをクリックしてLaunch AcuSolveダイアログを開きます。


    図 6.
    注: このケースでは、デフォルト値を使用します。AcuSolveは4つのプロセッサを使用して実行され、AcuConsoleAcuSolve入力ファイルを生成して、AcuSolveを起動します。AcuSolve は、この問題の定常状態解を計算します。
  2. Okをクリックして解析プロセスを開始します。

    計算中、AcuTailウィンドウが開きます。解析の進行状況はこのウィンドウで報告されます。解析プロセスのサマリーで、実行が完了したことが示されます。

    このサマリーで提供される情報は、AcuSolveで使用されるプロセッサの数に基づいています。このチュートリアル内で示されている数と異なる数のプロセッサを使用した場合は、示されているサマリーと実行時のサマリーが少し異なる場合があります。



    図 7.
  3. AcuTailウィンドウを閉じ、データベースを保存して設定のバックアップを作成します。

AcuProbeによる解析のモニター

AcuProbe は、レジデュアルのモニターに使用できます。

  1. ツールバーの アイコンをクリックして、AcuProbeを開きます。
  2. 左側のData Treeで、Residual Ratioを拡張表示します。
  3. Final を右クリックし、Plot Allを選択します。
    解の比率は、ステップごとに解がどれだけ変化しているかを示します。
    注: プロットを正しく表示するために、ツールバーで をクリックする必要がある場合があります。


    図 8.

AcuTrace用の粒子トレース属性の準備

これで定常状態シミュレーションが完了したため、有限質量粒子トレーサーを使用して、エポキシの補強によく使用されるSiO2、の微小粒子をシミュレートすることができます。

静解析用の粒子トレースパラメータの定義

次の手順では、粒子トレースデータを定義します。

  1. AcuConsoleで、Data Tree ManagerALLをクリックして、Data Tree内のすべての設定を表示します。
  2. Data Treeで、Particle Traceを拡張表示して、粒子トレースに関係する項目のみを表示します。


    図 9.
  3. Problem DescriptionをダブルクリックしてProblem Description詳細パネルを開きます。
  4. Particle equationに対して、Finite massを選択します。
  5. Data Treeで、Flow Fieldをダブルクリックして詳細パネルを開きます。
  6. これは静解析であるため、Flow field typeをStaticに設定します。
  7. Data Treeで、Finite Massをダブルクリックして詳細パネルを開きます。
  8. Density modelがUse flow valuesに設定されていることを確認します。
    Use flow valuesオプションを使用するには、導出量出力を指定する必要があります。導出量出力が使用できない場合は、Constantを選択して、Constant density値を入力します。これにより、粒子が指定された密度値を維持できます。

有限質量境界条件の定義

次の手順では、有限質量境界条件を設定します。

  1. Particle Traceの下で、Finite Mass Boundary Conditionを右クリックして、Newを選択します。
  2. Finite Mass Boundary Condition 1を右クリックして、Renameを選択します。
  3. 新しい名前をSideWallsとして入力します。
  4. SideWallsをダブルクリックして、Finite Mass Boundary Conditionパネルを開きます。
  5. Particle surfaceをPipe Wallに設定します。
  6. Wall typeはReflectに、Normal and Tangential coefficient of restitution typeはConstantに設定されたままにします。
  7. NormalとTangential coefficient of restitutionの両方に対して0.2と入力します。


    図 10.
  8. Data Treeで、Finite Mass Boundary Conditionを右クリックして、Newを選択します。
  9. Finite Mass Boundary Condition 2の名前をFinWallsに変更します。
  10. FinWallsをダブルクリックして、Finite Mass Boundary Conditionパネルを開きます。
  11. Particle surfaceをFin Wallsに設定します。
  12. Wall typeはReflectに、Normal and Tangential coefficient of restitution typeはConstantに設定されたままにします。
  13. NormalとTangential coefficient of restitutionの両方に対して0.8と入力します。
    これにより、粒子が壁に衝突し、より速い速度で跳ね返るときのエネルギー損失が抑えられます。


    図 11.

粒子シードの定義

次の手順では、流れ領域内を移動する粒子シードを定義します。

  1. Particle Traceの下で、Particle Seedを右クリックして、Newを選択します。
  2. Particle Seed 1の名前をS1に変更します。
  3. S1をダブルクリックして、Particle Seedパネルを開きます。
  4. Coordinates typeに対して、Surface Randomを選択します。
  5. Particle surfaceに対して、Inlet S1を選択します。
  6. Number of seedsに対して、500と入力します。
  7. Constant densityに対して、200と入力します。
  8. Constant radiusに対して、0.0001と入力します。


    図 12.
  9. Particle Traceの下で、Particle Seedを右クリックして、Newを選択します。
  10. Particle Seed 1の名前をS2に変更します。
  11. S2をダブルクリックして、Particle Seedパネルを開きます。
  12. Coordinates typeに対して、Surface Randomを選択します。
  13. Particle surfaceに対して、Inlet S2を選択します。
  14. Number of seedsに対して、500と入力します。
  15. Constant densityに対して、200と入力します。
  16. Constant radiusに対して、0.00015と入力します。


    図 13.

出力パラメータの定義

次の手順では、出力パラメータを定義します。

  1. Particle Traceの下で、Outputを拡張表示します。
  2. Trace Outputに対応するボックスをオンにします。
  3. Trace Outputをダブルクリックして詳細パネルを開きます。
  4. Output frequencyに10と入力します。
    これは、セグメント数、または粒子の大よその長さに関係する頻度でデータの流線を出力することと等価です。AcuTraceに必要なディスクの数を減らすために、出力頻度を1より大きくする、より具体的には、1桁多くすることをお勧めします。


    図 14.

流跡線の計算と確認

これで定常状態シミュレーションが完了したため、有限質量粒子トレーサーを使用して、エポキシの補強によく使用されるSiO2の微小粒子をシミュレートすることができます。

AcuTraceの実行

次の手順では、AcuTraceを起動してこのケースの解を計算します。

  1. ツールバーで をクリックしてLaunch AcuTraceダイアログを開きます。


    図 15.
  2. デフォルト設定を受け入れて、Okを選択し、解析プロセスを開始します。

AcuFieldView用の結果の変換

AcuFieldView実行が完了したら、で読み取れるように結果を変換する必要があります。これを行うには、AcuTransTraceユーティリティを実行します。このツールは、Ensight、FieldView、またはAcuDisplay用にデータを変換するために使用できます。

  1. Windowsのスタートメニューからコマンドプロンプトを起動するため、スタート > Altair <バージョン> > AcuSolve Cmd Promptをクリックします。
  2. cdコマンドを使用して、ディレクトリを作業ディレクトリに変更します。
  3. 次のコマンドを入力します。
    acuTransTrace –to fieldview –fvopt streamline,steady


    図 16.

AcuFieldViewでのポスト処理

チュートリアルは、AcuFieldViewのインターフェースと基本的な操作に慣れていることを前提として作成されています。本チュートリアルは、一般に次の基本事項の理解に役立ちます:
  • メインメニューのFileプルダウンでデータリーダーを検索し、データ入力のための目的のリーダーパネルを開く方法。
  • サイドツールバーまたはメインメニューのVisualizationパネルプルダウンから表示パネルを検索し、AcuFieldViewでサーフェスを作成および変更する方法。
  • マウスアクションを使用してモデリングウィンドウでデータを動かし、データの移動、回転、およびズームを行う方法。
このチュートリアルでは、定常状態データを操作し、流跡線ファイルを読み込む方法を示します。
AcuConsoleウィンドウのツールバーでアイコン を使用してAcuFieldViewを起動します。
圧力コンターがすべての境界サーフェス上に表示されていることが確認できます。下の図はメッシュがオフの状態でキャプチャされたものです。


図 17.

ミキサーでの境界サーフェスと座標平面の作成

  1. Boundary Surfacesダイアログで、ColoringをGeometricに変更します。
  2. colorタブでgreyを選択します。
  3. Show Meshオプションのチェックをはずし、メッシュ表示をオフにします。
  4. Boundary Typeリストから、OSF: Fin Wallsを選択して、Okをクリックします。
  5. 流れが画面の下から上に移動するのが見えるように形状の方向を設定します。
  6. Boundary Surfaceダイアログで、Createをクリックして、新しい境界サーフェスを作成します。
  7. Boundary Typeリストから、OSF: Pipe Wallsを選択して、Okをクリックします。
  8. Display TypeをOutlinesに設定し、ColoringをGeometricに設定します。

中央座標サーフェス上に速度を表示する座標サーフェスの設定

  1. をクリックしてCoordinate Surfaceダイアログを開きます。
  2. Create をクリックして新しいサーフェスを作成します。
  3. Coord Planeをmid –Y coordinateサーフェスで設定します。
  4. Display TypeをConstantに変更します。
  5. ColoringをScalarに変更します。
  6. Scalar Functionに対して、表示するスカラー関数としてz-velocityを選択し、Calculateをクリックします。
  7. Colormapタブをクリックして、coloringをLocalに変更します。
  8. Legendタブをクリックし、Show Legendチェックボックスを有効にして、座標平面上に速度値を表示します。


    図 18.

境界サーフェスと流跡線の設定

  1. Pathsアイコン をクリックして、Particle Pathsダイアログを開きます。
  2. Importをクリックします。
  3. acuTransTraceを使用して作成された.fvpファイルを参照して、Openをクリックします。
  4. Particle Pathsダイアログで、Coloring typeをScalarに変更します。
  5. Scalar Variableとしてparticle_z_velocityを設定します。
  6. Legendタブをクリックして、凡例をオンにします。


    図 19.

要約

このチュートリアルでは、流跡線を視覚化するために、静的ミキサーの定常シミュレーションを正しく設定し、解析しました。チュートリアルは、AcuConsoleでデータベースを開き、ミキサー内の化学種混合を計算するためにシミュレーションパラメータを設定することから始めました。AcuTraceを実行して静的ミキサー内の流跡線を生成し、AcuTranstraceを使用してデータを変換し、AcuFieldViewで流跡線を視覚化しました。