RD-E: 1300 ショックチューブ

空気で満たされたショックチューブ内で衝撃波が発生し、アルミプレートに衝撃を与えます。



図 1.

数値計算結果と実験データの比較を可能とするために、アルミプレートへの爆風波伝播と衝撃波の衝撃を含むショックチューブの実験がRadiossで再現されています。チューブの高圧部に最初に閉じ込められた圧縮空気が放出されることで、低圧部に伝播する圧縮衝撃が形成されます。空気中の爆風波の伝播をシミュレーションし、衝撃波に対するアルミプレートの応答を調べるために、ショックチューブの2つの具体的な構成が検討されています。

使用されるオプションとキーワード

入力ファイル

本例題で使用される入力ファイルは下記のとおり:

<install_directory>/hwsolvers/demos/radioss/example/13_shock_tube/*

モデル概要

ショックチューブの高圧チャンバーに閉じ込めておいた圧縮空気を解放することにより、ショックチューブ内部の空気中に衝撃波を生成します。

チューブ内部の2つの部分を隔てる壁を取り払うと、低圧部に圧縮衝撃が形成されます。

この例題で扱うショックチューブは、断面が80x80mmの正方形で、低圧部の長さが3.18mです。

このショックチューブで2種類の構成を検討します。両方の構成で同一の実験装置を使用し1、シミュレーション結果(数値計算結果)と実験データを比較できるようにします。

衝撃試験の構成

一般的な構成として、高圧部の長さを800mmとします(図 2)。


図 2. 衝撃構成の問題概要
この構成で生成される波動の圧力プロファイルは図 3のようになります。


図 3. 生成された波動の圧力プロファイル. 3.1ミリ秒時点での衝撃構成

低圧部の末端には、アルミニウム5757 H11を材料とする厚さ0.52mmのプレートが置かれています。

実験では、このプレート中央部での速度を測定するヘテロダイン式レーザー速度計を使用して、プレート中央部の変形を監視します。

高圧チャンバー内部の初期圧力は10.7bar(1.07MPa)とします。

衝風試験の構成

この構成の高圧部を短くして56mmにします(図 4)。このレイアウトでは、衝撃波面がチューブ末端に達する前に希釈波が衝撃波面に追いつくので、前とは異なるプロファイルの衝撃波が生成されます(図 5)。


図 4. 衝風構成の問題概要


図 5. 生成された波動の圧力プロファイル. 3.1ミリ秒時点での衝風構成

この試験で生成される波動の圧力プロファイルは、空気中での高性能爆薬の爆発で生成される爆風の波動に類似しています。

チューブ末端の前面に6台の圧電式圧力計を設置し、時間の経過に伴う過剰圧力の変化を捉えます。

この衝風構成では、高圧チャンバー内部の圧力を6.5bar(0.65MPa)にします。

モデリングの方法

単位: mm、ms、g、N、 MPa

問題に対称性があることから、ショックチューブの1/4のみをモデル化します。

4mmのメッシュを使用した3Dの/BRICK要素で流体領域をメッシュ化します。これにより、約80,000個の要素を扱うことになります。アルミニウムプレートは、100個のSHELL要素でメッシュ化します。
  • 大気

    高圧部と低圧部は、2つの独立した構成部分としてチューブの内部に配置します。

    理想気体の状態方程式(/EOS/IDEAL-GAS)と結び付いた流体力学流体則(/MAT/LAW6)を該当の物理特性(表 1)で定義し、その流体則で高圧部内部の圧縮空気と低圧部内部の大気圧条件にある空気をそれぞれモデル化します

    最終的に有限体積法ソルバーを有効にするには、初期の体積比を1として、多流体則(/MAT/MULTILFUID、MAT IDは10と20)で各流体力学流体則/MAT/LAW6を参照します。つづいて、多流体則(/MAT/MULTILFUID)のそれぞれを対応する構成部分に関連付けます。
    表 1. 材料を定義する物理特性
      高圧部の空気 低圧部の空気
      衝撃構成 衝風構成 両方の構成
    圧力 P 1.07 MPa 0.65 MPa 0.1 MPa
    質量密度 ρ 13.107E-6 g.mm-3 7.963E-6 g.mm-3 1.225E-6 g.mm-3
    断熱指数 γ 1.4 1.4 1.4

    /MAT/MULTIFLUIDの各材料には/ALE/MATを定義します。これにより、衝撃波のインパルスが空気中をプレートまで伝播できます。

    /ALE/MUSCLオプションを指定すると、時間領域と空間領域での2次積分法がすべて有効になります。このオプションを追加して高精度な結果を得ます。

  • アルミニウムプレート

    アルミニウムプレートは、/SHELL要素を使用して低圧部の末端に作成します。

    アルミニウムに使用する材料則は等方性弾塑性則(/MAT/LAW2)です。この材料則は、Johnson-Cook材料モデルを使用し、/SHELL要素との互換性を有します。このシェル要素では以下の特性を使用します:
    BATOZ定式化
    Ishell = 12
    完全に幾何学的非線形
    Ismstr = 4
    板厚内部の5つの積分点
    N = 5
    板厚
    t = 0.52mm

    他の全ての特性はデフォルト値に設定されます。

  • 流体-構造連成

    空気とプレート間の流体-構造連成は直接連成で作成します。ALE成分とLagrangian成分の一致する節点がマージされ、境界における流体とプレートの材料速度が等しくなります。プレートの変位は流体の境界条件として機能するので、空気を/ALE/MATERIALとして定義する必要があります。

    このモデルは絶対圧で定義されているので、大気圧と等価な圧力荷重をプレートの裏側に適用する必要があります。プレートの裏側に0.1MPaの圧力荷重(/PLOAD)を適用することで、この状態を実現できます(図 6)。

  • 境界条件


    図 6. 衝撃構成モデルの概要

    流体領域の境界はすべてスライディングウォールです。これは、/MAT/MULTIFLUID材料則を使用する場合のデフォルトの境界条件です。

    プレートモデルの端部に適用する境界条件は、ショックチューブの末端でプレートが固定されているということです。これらの条件では、モデルの対称性を考慮して、実際にはプレートの1/4のみをモデル化しています(図 7)。


    図 7. プレートに適用する境界条件

    プレートの中央部に/TH/NODE時間履歴を適用して(図 7)、プレートの変位をデータと比較します。 1

    衝風構成のモデルは、高圧部の寸法を除き、衝撃構成のモデルと同じです。

    /TH/ELEM時間履歴は、チューブの方向に沿って作成され(図 8)、基準実験の実験構成を再現します。その数値計算結果を、圧力計に記録された実験値の圧力プロファイルと比較します。この例題では、この構成によるプレートの変形は検討しません。


    図 8. 衝風構成モデルの概要
  • エンジン制御

    Radiossの2019.0リリースの段階では、すべてのALE要素とEULER要素の時間ステップ係数はデフォルトで0.5に設定されています。この値は、キーワード/DT/ALEを使用して変更できます。

結果

衝風構成の圧力プロファイル

図 9では、/TH/ELEM時間履歴で取得した圧力プロファイルを過剰圧力の実験データと比較しています。


図 9. 衝風構成における圧力プロファイルの数値計算値と実験値の比較

このモデルは絶対圧で定義されているので、負数のオフセットを使用して大気圧(0.1MPa)の値を考慮した数値計算結果を、過剰圧力を捉えた圧力計による実験結果と比較しています。

数値計算データと実験データが時間軸上で一致するためには、実験データの時間原点を、衝風波動が最後の圧力計に到着した時点と一致するまで平行移動します。

表 2では、最大過剰圧力の数値計算値を実験データと比較しています。
表 2. 衝風構成における最大過剰圧力の実験値と数値計算値の比較
圧力計1 圧力計2 圧力計3 圧力計4 圧力計5 圧力計6 平均値
実験値 770 690 740 730 700 690  
Radioss 720 704 693 679 666 653  
相対誤差(%) 6.5 2.0 6.4 7.0 4.9 5.4 5.3

衝撃構成におけるプレートの変形

図 10では、プレートの変形量の数値計算値と実験値を比較しています。


図 10. 変形の数値計算データと実験データ. 衝風構成のプレート中央部

プレートの変形の実験値は、プレート中央部の速度を積分して求めています。この速度はヘテロダイン式レーザー速度計で測定した値です。

実験データの時間原点は実験の実施ごとに異なるので、すべての信号の実験データと数値計算データは、プレートの変形量がその最大変形量の1/2になる時点が一致するように位置を調整しています。
表 3. プレートの最大変形量の実験値と数値計算値
プレート板厚 プレートの最大変形量
実験値 0.52 8.49
標準偏差 3% 2%
Radioss 0.52 8.31
相対誤差(%)   2.1

Radiossで得られたプレート変形量の時間プロファイルは、実験で得られたプロファイルとほぼ一致しています。プレートの最大変形量の実験結果と数値計算結果との相対誤差は、実験データの標準偏差(0.18mm、2%)と同程度です。

まとめ

多材料則/MAT/MULTIFLUIDを併用した流体力学流体則/MAT/HYD_VISCを使用してショックチューブ内部の空気をモデル化することで、その空気中における衝撃波の発生を検討しました。高い精度を目指してオプション/ALE/MUSCLも追加しています。2種類の構成を作成して、空気中での衝風波動の伝播および衝撃波を受けた金属プレートの変形を確認しました。

実験で得られたデータと数値計算結果を比較しています。 1

衝風構成では、衝風波動の時間プロファイルと最大過剰圧力の両方をRadiossで正確に予測しました。

衝撃構成でのプレートの変形結果も、変形量の時間プロファイルとその最大値の両方で実験データとほぼ一致しています。

数値計算結果と実験結果の間に良好な相関が見られることは、空気中の衝風波動の伝播およびそれに伴う流体と構造との相互作用を正しく処理できる能力がRadiossの有限体積法ソルバーにあることを示しています。

1 P. Legrand, Modeling of Pyrotechnica Effects on Civil Engineering Infrastructures, PhD Thesis in preparation, Sixense NECS / ENSTA Bretagne, 2019